AI導入の試算ガイド / 公開日 2026-09-18

工数削減の計算方法|改善前後の比較・年間換算・時給単価の置き方

業務を自動化したあと、上司から必ず聞かれるのは「で、いくら浮いたのか」です。ところが現場に残っているのは「前より楽になった」という感想だけ、という状態が非常に多い。 この記事では、改善前後の工数を同じ条件で測って差を出し、それを年間の時間と金額に換算するまでの手順を、式と記入例つきで書きます。 特別な会計知識は要りません。必要なのは、測り方を先に決めておくことだけです。

1. 工数削減の計算は、結局3つの数字しか使わない

工数削減の計算式は、分解すると次の3段だけです。難しく見えるのは、この3段のどこを測っているのかが人によってバラバラだからで、式そのものは単純です。

計算式答えるもの
①削減時間(月)改善前の月間工数 − 改善後の月間工数1か月で何時間浮いたか
②削減率削減時間 ÷ 改善前の月間工数 × 100元の何%を減らせたか
③年間削減額削減時間 × 12 × 時間あたり人件費1年でいくら分の時間が浮くか

報告に使うのは①と③です。②の削減率は単体では意味を持ちません。「80%削減」と書いてあっても、元が月2時間の作業なら浮くのは月1.6時間で、 導入費用を回収できる規模ではないからです。率だけを見出しにした報告書は、ほぼ必ず「で、何時間?」と差し戻されます。

2. 改善前の工数を測る(ここを盛ると全部が崩れる)

基準になるのは改善前の実測値です。式は次の1本です。

月間工数(時間)= 月の発生回数 × 1回の所要時間(分)× 関わる人数 ÷ 60

測るときに外してはいけない点が3つあります。

  • 関わる人数に「確認する人」を入れる。作業者1人で測った工数と、承認者・目視チェック担当を含めた工数は、2倍近く違うことがあります。 確認工程を入れずに改善前を測ると、改善後に確認だけが残ったときに「減っていない」という結論になります。
  • 付随作業を切り離さない。ファイルを探す、前月分と突き合わせる、差し戻しに対応する。これらは作業時間として記録されていないのに、実際には発生しています。 1回あたりの所要時間は、着手から完了までの実時間で取ってください。
  • 平均ではなく、通常月で測る。月末・期末に山が来る業務を年平均でならすと、繁忙期の痛みが消えます。通常月の数字を基準にし、繁忙期は別枠で「ピーク時の削減時間」として添えます。

月間工数が5時間に届かない業務は、そもそも最初の対象に向きません。削減できる絶対量が小さく、導入と教育の手間のほうが上回るためです。 どの業務から測るかの選び方は業務棚卸のやり方にまとめています。

3. 改善後は「条件をそろえて」測る

比較で最も事故が起きるのがここです。改善前と改善後で条件が違うまま引き算すると、出てくるのは削減効果ではなく条件の差です。次の4点をそろえてください。

そろえる条件ずれたときに起きること
対象範囲(どこからどこまで)改善後だけ前処理を範囲外にして、減っていない工数が消える
件数(月の発生回数)件数が減った月と比べて、削減したように見える
担当者の習熟度導入直後の不慣れな1週間で測り、効果が実際より小さく出る
品質基準(差し戻し率)チェックを緩めて速くしただけの短縮を、削減として計上してしまう

実務上のおすすめは、時間ではなく「1件あたりの分数」で比較することです。1件あたりで測っておけば、件数が変動しても比較が成立します。 改善後の測定は、導入から2週間以上あけた連続する4週間で取ってください。学習期間の遅さを削減効果の計算に混ぜないためです。

削減率の目安は業務の性質で変わります。転記・整形・確認が中心なら50%70%、例外が多く判断を伴うなら20%40%を保守側の帯として使っています。根拠は算出方法と根拠に全部書いています。実測値がこの帯を大きく超えたときは、条件がそろっていないことを疑ってください。

4. 年間換算は「日」ではなく「時間」から積む

月の削減時間が出たら、年間に直します。ここで使う暦の数字は次のとおりです。社内資料に書くときは、この前提を必ず併記してください。前提を書いていない年間換算は、読んだ人が検算できません。

前提根拠
年間の平日244 日2026年の暦(土日・祝日を除いた日数)
月平均の稼働日20.33 日244 ÷ 12
1人日8 時間労働基準法第32条(法定労働時間は1日8時間・週40時間)
1人月約162.7 時間20.33日 × 8時間

換算の順番は「月の削減時間 → 年間の削減時間 → 人日・人月」です。逆に「1日分減った」から積むと、その会社の1日が7.5時間なのか8時間なのかで数字が動き、検算できなくなります。

  • 年間削減時間 = 月の削減時間 × 12
  • 人日換算 = 年間削減時間 ÷ 8
  • 人月換算 = 年間削減時間 ÷ 162.7

有給休暇の取得や所定労働時間が7.5時間の会社では、1人月の値が変わります。自社の就業規則の所定労働時間を使って差し替えてください。 大事なのは正確な暦を当てることではなく、改善前・改善後・他部署の試算で同じ前提を使うことです。

5. 時給単価(人件費)の置き方は3通り

削減時間を金額に変えるときの単価です。どれを使うかで金額が1.5倍ほど変わるため、資料には必ず「どの定義か」を書きます。

置き方計算向いている場面
A. 給与ベース月給 ÷ 月間所定労働時間現場での説明。最も小さく出るので反論されにくい
B. 法定福利費込みA × 1.15〜1.30稟議・投資判断。会社が実際に負担している額に近い
C. 総額人件費ベース年間の総人件費 ÷ 年間の総労働時間全社の効果集計。部署をまたいで比較できる

社内の説得力という意味ではBを推奨します。Aは社会保険料の会社負担分が抜けるため実際より小さく、Cは管理部門の費用まで按分されるため「その金額は本当に浮くのか」と突っ込まれやすいからです。 Bの係数は、自社の法定福利費率が分かるなら実数に置き換えてください。

もう1つ。浮いた時間は現金にはなりません。人員を減らさない限り、削減額は「他の仕事に振り向けられる時間の価値」です。 資料には「削減額=人件費の即時削減ではなく、同額の時間を他業務へ再配分できる効果」と1行添えておくと、経理部門との認識違いを避けられます。

6. 記入例:請求書の転記を自動化した場合

数字を入れると次のようになります。表の左をそのまま社内資料の項目に使えます。

項目計算
月の発生回数120 件実測
改善前 1件あたり12 分作業者+確認者の合計
改善前 月間工数24.0 時間120 × 12 ÷ 60
改善後 1件あたり5 分確認工程は残す
改善後 月間工数10.0 時間120 × 5 ÷ 60
月の削減時間14.0 時間24.0 − 10.0
削減率58.3 %14.0 ÷ 24.0
年間削減時間168 時間14.0 × 12
人日換算21 人日168 ÷ 8
時間あたり人件費3,000 円Bの置き方(法定福利費込み)
年間削減額504,000 円168 × 3,000

この記入例の値はすべて説明用の仮の数字です。ただし形は実案件のとおりで、改善後に確認工程の5分を残している点が要点です。 確認を0分にした試算は運用開始後に必ず崩れます。この年間削減額を費用と突き合わせてROI・回収期間まで出す手順はAI導入ROIの計算式に続けて書いています。

7. 計算が信用されなくなる4つの書き方

  • 削減率だけを見出しにする。母数が書いていない率は検算できません。必ず「改善前の月間工数」を併記します。
  • 複数業務の削減時間を合算して1つの数字にする。業務ごとに条件も削減率も違うため、合算した瞬間に誰も検証できなくなります。業務単位で並べ、合計は最下行に置きます。
  • 残った確認工数を数えない。出力の目視確認は残ります。改善後の工数に確認時間を入れていない試算は、現場から「実態と違う」と言われて止まります。
  • 前提を書かない。平日244日・1人日8時間・単価の定義(A/B/C)の3つは、表の下に3行で添えるだけで十分です。これがあるかないかで、資料の扱いが変わります。
この記事の計算式・削減率の帯・単価の係数は、当社が受託の実務範囲として保守側に置いた設定値にもとづく見込みであり、成果を保証するものではありません。 記入例の金額・時間はすべて説明用の仮の値です。年間の平日日数・所定労働時間は自社の就業規則と暦にあわせて差し替えてください。

関連:算出方法と根拠よくある質問 ガイド一覧

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